大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ラ)126号 決定

一、当事者

抗告人 田○英○

右代理人弁護士 松岡末盛

渋谷寿雄

二、主  文

本件抗告を棄却する。

三、理  由

抗告人は原審判を取消し、更に相当の裁判を求め、抗告の理由として主張する要旨は、(一)原裁判所における鑑定人前田忠重の鑑定は、抗告人を精神薄弱者の軽度のものとしているが、その鑑定の経過及び理由によれば、抗告人の心神の状態はもはや準禁治産宣告を維持することを必要としないものである。また原裁判所における証人北原初治、同北原志げの証言は、同人ら夫妻で、抗告人の権利に属する豊田屋旅館の経営を自らなし、利益を独占しようという悪意から出たものであつて、信用することができない。なお証人富沢和一は抗告人の保佐人であるにかかわらず、前記北原初治夫妻の非行を知りながら、これに対し何らの対策も講じないもので、同証人の証言も信用できない。このような鑑定及び信用できない証言によつて抗告人の申立を却下した原審判は不当である。(二)準禁治産制度は、準禁治産者の利益の保護を目的とするもであるにかかわらず、本件では、保佐人富沢和一が抗告人の利益の保護を計らず、宣告の申立人北原志げの夫妻から、抗告人が豊田屋旅館の営業を奪われているのを默過しているのであつて、むしろ準禁治産制度が悪用されている。(三)また原審は、医師佐藤薫を審問せずして同医師の診断を排斥し、抗告人の再鑑定の申請を取上げないなどの審理を尽さぬ違法をおかしているというにある。

よつて案ずるに、抗告人は、原裁判所における鑑定人前田忠重の鑑定の結果によれば、抗告人の心神の情況はもはや準禁治産者としておく必要がないと主張しているけれども、右鑑定の結果によれば、現在も、抗告人の知能発育には多少欠陥があり軽度ではあるが精神薄弱者であつて、幼少の時からこの症状は軽快したり、治癒したりすることなく今後も続くものであると認められるから、抗告人は、昭和二十三年三月二十四日心神耗弱者として準禁治産の宣告を受け、これに対する抗告が同年七月五日却下せられて右宣告が確定した後も、今日まで依然心神耗弱者で、まだその準禁治産の原因は消滅していないというべきである。更に抗告人は、原審が医師佐藤薫の診断を排斥したのは不当であると主張しているけれども、同医師の診断書の全文は「健康、身体的に異常なし、神経系統異常なし」とあるだけで、これを前記鑑定人前田忠重の詳細精密な鑑定の結果と対照するときは、到底右鑑定の結果を左右するに足る資料たり得ないことが明らかである。

なお右鑑定はその前文に記してあるように、本人を五回以上診察問診し、親戚に面会して取調べ、本件記録中の証人調書等を閲覽し委細を尽しており、これ以上再鑑定を命ずる必要はないものと認められる。

次に抗告人は、本件においては、準禁治産制度がその申立人らによつて悪用されていると主張しているけれども、その主張する如く保佐人に、任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所にこれが解任を求めることによつて、準禁治産者の保護をはかるべきであり、また北原志げ夫妻が抗告人の権利に属する旅館豊田屋の営業を奪つて抗告人の権利を侵害しているという主張自体、準禁治産宣告取消の原因となるものではないから、この理由から抗告人の準禁治産宣告を取消すこともできない。

その他記録について調べるに、本件審判手続にはなんら違法不当の点は認められず、抗告人の準禁治産宣告取消の申立を却下した原審判は相当であり、本件抗告はその理由がないから、家事審判規則第十八条、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二十五条、民事訴訟法第四百十四条第三百八十四条第一項に則り主文のとおり決定する。

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